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「スザク!説明をしてください!」 室内に駆け込んできたユーフェミアは、乱れたスカートの裾を直すとすぐに命じた。その顔は走ってきた事で赤くなり、汗をかいて息も切らしている。いつもは穏やかなユーフェミアの怒りの形相に、スザクは思わずたじろいだ。流石ルルーシュの妹、皇帝の娘。普段はおっとりしているように見えるが、ものすごい迫力だった。 さて、これは一体どんな状況だ?と、C.C.は目を細めた。 咲世子が戻ってこない。 扉が閉まる一瞬だけユーフェミアを追いかけてきた姿が見えたが、部屋には入ってこない。そこから想像するなら、ユーフェミアが入ってしまったのはもう仕方がない、外に従者を連れて来ている可能性を考え、建物の外を見に行ったのか?皇女殿下がこんな夜中に1人で来るはずがない。必ずだれかが付き従っている。 ここはスザクがいれば、皇女が何をしようとどうにかなるだろう。むしろお前は責任を取ってそのお飾りをここから離せと考えながら、C.C.は窓辺に移動し、カーテンの隙間から外を確認した。 予想通り玄関には体格のいい男が一人立っていて、咲世子が相手をしていた。 玄関から離れた場所に車が停まっているのも見える。 男の様子から室内に入る気配は見えない。 軍服ではなく私服。 おそらく、ユーフェミアの命令で急きょ此処へとやってきたのだろう。 そして、ここで待っているよう命令されたと考えられる。 二人きりな所を見ると、コーネリアにも言わずに秘密裏に来たと見るべきか・・・。 そこまで確認してから、C.C.は室内に視線を戻した。 怒り心頭といった顔のユーフェミアには、スザクしか見えていないらしい。 説明しろ言われているスザクは既に扉の近くへ移動していて、困ったような顔でユーフェミアをなだめていた。一応考えているのだろう、スザクがそこに立つ事で、ナナリーとルルーシュの顔はユーフェミアから見えなくなる。 C.C.は靴音を立てずにナナリーの傍へ移動すると、二人を直接ユーフェミアの目に触れないように車いすを反転させ、その椅子の背もたれに体重をかけた。 こうする事で、よりユーフェミアの目には届きにくくなる。 ナナリーは腕の中にいる小さな兄を抱きしめ、口を閉ざした。 「落ち着いて、ユフィ」 「私は落ち着いています!」 「・・・えーと、わかったよ。それで、こんな時間にどうしたの?」 全然落ち着いてなどいないが、これ以上指摘しても認めないだろう。彼女はスザクに用事があって来たのだからそれを聞くべきだと判断した。出来ればこのまま上手く話を進めて部屋から出たかったが、それは許されなかった。 「・・・っ、スザク、貴方に子供がいると言う話は本当ですか!?」 言葉を詰まらせた後、今にも泣きそうな表情でユーフェミアは訴えた。 流石ルルーシュの妹、ナナリーの姉。 彼女もまた美しく愛らしい。 そんな姫君の頬染め&涙目&上目使いのコンボにスザクはたじろいだ。 「ど、どうしてその話を!?」 アッシュフォード学園内での噂なのにという意味で言ったのだが、相手から見れば肯定ともとれる返事で、ユーフェミアの顔色が悪くなり、ポロリと涙がこぼれた。 な、何で泣くの!?と完全に困惑しているスザク。 惚れた男に子供がいるからだろうがと、冷めた視線を向けるC.C.。 ユフィの涙に動揺し、思わず助けに行こうとするルルーシュ。 そんなルルーシュをしっかりと押さえこみ、眉を寄せるナナリー。 しんと静まり返った部屋の中で、ユーフェミアは小さな声で尋ねた。 「す、スザクの・・・奥様は、カレンという名前なのですね・・・」 「え?僕結婚してないし、カレンと付き合ってもいないよ」 自分は何も悪くないし100%誤解だ。だから即否定した瞬間、ユーフェミアは手を振り下ろしていた。パシン、と鋭い音が鳴り響き、スザクは驚いた表情で目をパチクリし、涙をこぼすユーフェミアは目を吊り上げていた。 「婚約者でもなく、恋人でもない女性と、こ、子供を作ったと言うのですか!?スザク、恥を知りなさい!!」 凛とした声音で言われた言葉に、スザクは困ったように眉を寄せた。 「僕に子供はいないんだけど・・・」 幼児化したルルーシュとカレンが原因だと解っているが、そこは隠したまま素直に答えると、叱られている子犬のようなスザクの様子に、ユーフェミアは口を閉ざした。 スザクが嘘をついているのでは?一瞬そう思ったが、スザクは嘘をついているようには見えず、ユーフェミアは目をぱちくりさせた。 「・・・スザク、嘘偽りなく答えなさい。貴方に子供はいますか?」 「いません」 もちろん、カレンとは子供が出来るようなこともしていない。 「そ、そうなのですか!?ではなぜあのような報告が・・・」 学園で流れていた噂は、スザクの監視者の耳に入り(朝、出かけた先で見失い、学園付近で発見してからの監視)ユフィに報告したらしい。それが1時間ほど前の事で、真偽を確かめようと大学の方へ押し掛けたところスザクの姿が無く、夜勤で詰めていたセシルにクラブハウスに行ったと教えられ、その足でここまでやってきたという。 思い立ったらすぐ行動の彼女を止められる者などいない。 コーネリアはギルフォードと共に現在キョウト疎開へ行って不在だったのも不運としか言えない。事態に気付いたダールトンが、軍服に着替える間も惜しんでユーフェミアの元へ行き、説得を試みたが失敗。仕方なく護衛をかねてこうして共に来ていた。 スザクと二人きりで内密に話したいからと、ダールトンにクラブハウス内へ入ることを禁じたが、そもそもスザクの友人の住んでいる場所に押し掛けて二人きりで内密な話など不可能だろうと思いながらも、皇族命令である以上逆らえず、ダールトンは困った顔で咲世子と共に玄関フロアでユーフェミアが戻るのを待っていた。 「僕の友達が、悪ふざけで流した噂に尾ひれがついて広まった物だよ」 「では、その、カレンという女性が休んでいるのは出産後だからというのは?」 「元々カレンは体が弱くて学校には殆ど来てないから、長期間休んでいても何もおかしくはないよ」 実際は元気いっぱいでスザクと対等に張り合えるほどの女傑だが、 学園では深窓の令嬢で通している上に病弱設定なため、スザクはよくあれで病弱設定なんてやってるよなぁ・・・と思いながらも説明した。 「そ、そうなのですか!?」 そんな報告は聞いていないとユーフェミアは驚いたが、この見るからに好青年であるスザクが女性にだらしない筈がない、そう、スザクは女性とお付き合いだってしたことがないはず。やはり報告はすべて間違いだったのだと納得し、花も綻ぶような美しい笑顔を向けた。 「御免なさいスザク、貴方の事を疑ってしまいました。自分の騎士を信じられないなんて主失格ですね」 スザクを疑ってしまった事を恥じ、頬を赤らめたユーフェミアを見て、誤解が解けたと理解したスザクもまた、笑顔を浮かべる。 「気にしないで。君に信じてもらえてよかった」 見目麗しい男女が見つめ合い、笑い合う姿は普通に考えれば眼福だが、その対象がお飾り皇女と邪魔者暴走騎士だから、マイナス補正が付きまくってしまい、あー、はいはい、いいからささっさとどっか行けと思ってしまう。同じ眼福なら、ルルーシュとナナリーが笑い合う姿や、私とルルーシュが共にいる姿の方が何百倍も美しいだろう。何にせよ猪突猛進主従はある意味最悪の組み合わせだから、これから先もこういう問題は起きそうだなとC.C.は冷めた目で見つめていた。 |